堀 新太郎 MITスローンの卒業生から一言

私は、現在グローバル・プライベート・エクィティーファンドのベインキャピタル・ジャパンの会長として、日本企業への投資と経営サポートの仕事に従事しています。それ以前には、ベイン・アンド・カンパニーの日本支社長やマッキンゼーのパートナーとしてコンサルティング業界に長い間身を置いてきました。又、UCC上島珈琲の副社長や中小企業の事業再建の社長として、実務経験もしてきました。

MITのスローンには日本の大学院一年終了後に入学しましたので、全く実務経験無しに入ったわけで、卒業後はマッキンゼーのニューヨーク事務所でコンサルタントとして、初めて実務経験をしたわけです。スローンはビジネススクールではありますが、修士号が示す通り、サイエンスとマネジメント、つまり理科系と文科系の教育が程よくバランスしており、ケースやディスカッション一辺倒の学校に比べて日本からの学生にも極めてなじみ易かったと思います。その後たくさんの仕事を経験してきましたが、スローンでの準備のおかげでそれほど抵抗なく、プロとして仕事で力を発揮することができたと感謝しています。

一方、そういう仕事をしながら気になるのは、最近日本が極めて過小評価されて来ており、特に日本人自身が一番日本を懐疑的に思っていることです。確かに、政治の世界を見ると日本を誇りに思うのは困難かもしれませんが、私どもベインキャピタルの視点から見ると、投資機会さえいただければ日本企業は極めて魅力的な投資先であり、収益性でも成長性でも、極めて高い潜在可能性を有していると思っています。特に分析的にはなかなか示しにくいソフトの面、即ち職業倫理が高く、他人や周囲のことを考え、どんな立場でも自己のベストを尽くす。そして忍耐力と向上心、創意工夫の精神という、極めてまれな国民性を持った人材や、製品、技術、サービス、ノウハウは、後発の発展途上国はもとより、他の先進国でも一朝一夕にはまねできない優れた素地となっています。

ところが、肝心の日本人自身がそうした日本の長所を意識しなくなったり、グローバル化という名のもとに、他の国の文化に安易に同化しようとしたりする傾向がみられて残念です。新渡戸稲造の“武士道”や、ラフカディオ・ハーンの“神国日本”、藤沢周平の時代小説等を読むと、自分の分をわきまえながら、社会の為、組織の為にストレッチした努力をする日本人の特色が1000年以上の長い歴史の中で構築されてきており、そう簡単には失われないということが良く理解できます。

私自身も、弊社が進めている震災の復興支援活動の中で、震災直後から何回も被災地を訪問しましたが、被災者の方々、それを支援する市、町、村の現場の方々が、大きな混乱なく、自己中心的にならず、一致協力して前向きに災害を乗り切っておられる姿を目の当たりにして、あらためて日本人の素晴らしさを実感しました。おそらく激甚災害が、日本人の中に眠っていた優れた遺伝子を呼び覚ましてくれたのでしょう。

MITスローン受験を志している皆さんはこれからグローバルな環境の中で仕事をされていくのだと思いますが、「和して同ぜず」という格言の通り、グローバル化というのは自分や自国のアイデンティティーを無くして同化するのではなく、日本の良さを誇りに思い最大限に発揮して世界と融和しながらリードすることだと思います。皆さんがMITの経験を生かして、そういうリーダーになっていかれることを、心から期待しています。